私はウイルス

「私はウイルス」ということを、人間が、科学的に解明したのは、ごく最近のことである。2003年の「ヒトゲノム完全解読」以降である。人間は、この解明に、30万年以上の歳月を費した。この解明がどれほどの大発見か。このことを認識している人は、まず、いない。
 
人間の基底にあるのは、「真理」とか「叡智」。人間誕生以来、ずっと、このように信じてきた。これが事実でない。となると、今まで積み上げてきた「人間哲学」がひっくり返ってしまう。これは、一大事。
 
事実は、人間の行動の基底にあるのは、「真理」とか「叡智」でなく、「ヒトゲノム」。そして、その「ヒトゲノム」の解読から推定されるのが、「私はウイルス」という仮定。何故なら、その半分以上にウイルスの足跡が認められるから。
 
ウイルスは、細胞に侵入して、そのエネルギー源を乗っ取って、細胞を破壊して、「自己複製」という「生命目的」を実現する。そして、それを伝えるために生まれた。それがウイルスの「生命目的」。
 
「私はウイルス」。これが事実となると、「ウイルス=人間」及び「細胞=地球」になる。ウイルスの「生命目的」は、結果的に、「自己複製」のために細胞破壊すること。人間の「生命目的」は、「自己複製」のために地球破壊することとなる。細胞が無限にあるように、宇宙には、地球のような惑星も無限にある。
 
人間は、「私はウイルス」を、素直に受け入れることはまずない。受け入れないよう必死に努める。滅亡するその日まで。しかし、人間の行動の基底にある、「ヒトゲノム」に逆らうことはできない。「生命目的」=「自己複製」という単純な事実を見ないように、美辞麗句の「言語」にひたり、自分を騙して生きる。これが「人間パラドックス」である。
 
十牛図の八図(人牛惧忘、じんぎゅうぐぼう)の「真理」の会得を、「私はウイルス」と会得したと解釈する。すると、十図(入鄽垂手、にってんすいしゅ)のように、「真理」(「私はウイルス」)を民に伝えるより、蟄居して沈黙を護った方が、賢いということになる。人間は、「私はウイルス」などと絶対思いたくないから、酷い拒否に遭うのが関の山である。
 
実は、人間はその誕生から、自立していない可能性がある。人間は、何の神かわからないがその僕(しもべ)かもしれない。「ヒトゲノム」に潜む秘密か。その解明までは、宇宙の「生命目的」を認めて時間を丁寧に生きるしかない。
 
             2024年4月13日(2024.4.15/6)
             所源亮