本|「ウイルスの世紀-なぜ繰り返し出現するのか-」(山内一也)

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ウイルスの世紀-なぜ繰り返し出現するのか-の感想をお届けします。

 

 

コロナ太り、コロナ痩せ、コロナ離婚、コロナ倒産…と、まだまだコロナ禍は続きそうですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

そんなコロナウイルス熱の冷めやらぬ昨今、ぜひぜひぜひ読んでほしいご本を紹介したいと思います。それが、

 

「ウイルスの世紀-なぜ繰り返し出現するのか-」

山内一也,みすず書房

ウイルスの世紀-なぜ繰り返し出現するのか-表紙

 

です。ええ、ええ、御年89歳になられるウイルス学の権威、山内一也先生の新刊です!

山内一也

発売は2020年8月18日なのですが、大変ありがたいことに発売前にゲッツできまして、早速読ませていただきました。

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因となったコロナウイルスもそうですが、突然出現して人間界を混乱の渦に巻き込むウイルスを「エマージングウイルス」と言います。

本書では世間を騒がせたエボラ出血熱やSARSといった、様々な病気の流行を引き起こしたエマージングウイルスたちについて細やかに優しい口調で解説をしてくれています。

 

ウイルスと社会を俯瞰する

解説というか、帯にもあるのですが「俯瞰」(広い視野で、客観的に見る。上から眺める的な…)してます。

ウイルスは「病気」の形で現れるので、ついつい「VS」みたいな感じになってしまうのですが、そうではなく、ウイルスにはウイルスの事情(?)があるんですよね。人間視点だけではどうもよくないですね。

で、本書はあらゆるウイルスたちの出現から終息までの様子なども綴られているのですが、ウイルスの研究者や医療従事者の皆さんは、出現時にはまったく正体がわからない目に見えない存在である危険な病原体Xを果敢に相手にしていて凄い…言葉もないな…と読んでいてそればっかり思いました。

キーパーソンとなる研究者さんや医療従事者の方が、騒動の渦中に感染して亡くなっている話が出てくるのですよね。なんという惜しいことを…という気持ちになります。

 

コロナについても情報あり

また、コロナについても、基本から最新情報までばっちり説明があります。不安になっている方!ネットサーフィンして情報漁りなどせず、本書を読み込むのがいいと思います。

さらに、ACE2、IgM、IgG、ADEなどなど、、これらは文系には関係なかった用語ですが、今後は知っておいた方がいいかなと思いました。

その他、文系には慣れない専門用語や横文字が結構出てきますが、勉強するつもりでぜひ!

 

もくじ

1章 ウイルスとは何者か
1 割り切れない不思議な存在
2 不器用なウイルスと器用なウイルス
3 なぜ、どのように病気が起きるのか
4 発見までの道のり
5 研究手段の変遷

2章 エマージングウイルスの系譜
1 人獣共通感染症とエマージング感染症
2 マールブルグ病
3 ラッサ熱
4 エボラ出血熱
5 ハンタウイルス病
6 ヘンドラウイルス病
7 ニパウイルス脳炎
8 ウエストナイル熱
9 エマージング感染症はなぜ繰り返し現れるのか

3章 新型コロナウイルス
1 コロナウイルスの特徴
2 最初のコロナウイルスの発見
3 重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス
4 中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス
5 「次の新型コロナウイルス」に備える
6 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の出現

4章 人類はどのような手段を持っているのか
1 ワクチン
2 治療薬
3 公衆衛生対策
4 「ワンヘルス」にもとづく発生監視

5章 ウイルスとともに生きる
1 バイオハザード対策の発展史
2 高度隔離施設の現場へ
3 病原体の管理基準
4 根絶の時代から共生の時代へ

 

それにしても、日本では今回のコロナウイルス(SARS-CoV-2)を「新型コロナウイルス」なんて呼んでしまっていますが、これ、次の新しいコロナウイルスが出てきたら、どうするつもりなんでしょう…

会社でよくやってしまう、後がないファイル名の付け方を思い起こさせますね( 【最新】売上予測.xlsみたいな)。

 

あ、ちなみに、大事なことなので太字で書きますが、

COVID-19は病名で、SARS-CoV-2がウイルス名

です。ややこしいですね…

 

NEW 書評&山内先生のコメントご紹介コーナー

話題のご本ということで書評も続々。というわけで書評紹介コーナーを作ってみました。随時更新していきます〜(「ウイルスの世紀」以外の山内先生のご本も)。

2022/10/20 毎日新聞夕刊

2022/9/28 毎日新聞

2022/9/26 毎日新聞 

 

2022/7/3 赤旗

 

2021/11/21 神戸新聞

 

2021/8/22 北海道新聞 対談

2021/3/27 日経新聞 ※「ウイルスの意味論」引用

 

2021/2/19 朝日新聞

■根絶より共生を、問題は社会に 山内一也さん(東京大学名誉教授)

 ――この1年、新型コロナウイルスへの対応は「戦争」によくたとえられてきました。

 「私には、ウイルスを『敵』ととらえる考え方がしっくりきません。ウイルスが地球上に出現したのは、30億年前と考えられています。一方、ホモサピエンスはたかだか20万年前。人間は、ウイルスが存在していた世界に現れた新参者です。ウイルスを根絶できるという考えは、あまりに人間本位だと感じます。実際、人間がこれまで根絶できたウイルスは、天然痘と家畜伝染病の牛疫だけです」

 ――ウイルスは、人体に害を及ぼす病原体なのでは?

 「実はウイルスはとても多様です。陸上だけでなく海洋にも膨大な数が生息し、人間に感染して病気を引き起こすものはごく一部です。近年、私たちの体内で健康維持を助けるウイルスの存在も明らかになってきました。腸内細菌のバランスを整えたり、胎児を守ったり。人間はウイルスと直接、間接的に関わることで存続してきたのです」

 ――でも、新型コロナの現実的な脅威を考えれば、戦う姿勢は当然だ、とも言えませんか。

 「人間社会におけるこれまでの振る舞いを見れば、新型コロナが社会から消滅することは恐らくないと思います。人間はウイルスの根絶よりも共生を考えるべきでしょう。たとえば、天然痘ウイルスはほとんど変異しないため、1種類のワクチンだけで封じ込めることができた。なにより人と人の間でしか感染しない。必ず発病するため、最後の一人の感染者まで徹底的に追跡できました。『不器用なウイルス』だったからこそ根絶できたといえます」

 ――新型コロナは「不器用」ではないのですか。

 「新型コロナをはじめとするコロナウイルスは、とても『器用』です。人間の病原体となるコロナウイルスは数種見つかっていますが、変異し、極めて軽い症状の場合も多いため水面下で感染を広げます。すでに4種が一般的な風邪の原因ウイルスとして定着しています」

 「さらに重要なのは、様々な動物に感染できる点です。重症急性呼吸器症候群(SARS)のように人間社会から除外できたと考えられていても、いつ他の動物に潜むウイルスが表出してくるか分からない。コロナウイルスの最大の生存戦略は、1万年前にコウモリを宿主に選んだことだと私は考えています」

 ――どういうことですか。

 「コウモリは、空を飛ぶ唯一の哺乳類です。洞窟などに群れで『密』に暮らし、1日の飛行距離が数百キロに及ぶこともある。コロナウイルスはコウモリと共存したことで、非常に効率よく他の哺乳類へ生息範囲を広げました。考えてみれば人間は現在、コウモリ以上にグローバルを移動する空飛ぶ哺乳類になった。新型コロナの感染が急拡大したのも当然と言えます」

 ――でも共生するには人体への被害が大きすぎるのでは?

 「ウイルスは長いスパンでは次第に弱毒化し、宿主も免疫を獲得して共存する方向に進みます。それまで人間は、ウイルスが人体に引き起こす『病気』に対峙(たいじ)しなくてはならない。『病気』を制御する直接的な手段はワクチンと抗ウイルス剤です」

 「人間の体内では、細胞をハイジャックして自分のコピーを増やしたいウイルスと、それを防ごうとする免疫系がせめぎ合っている。人体で起きているこちらの方は『戦争』のメタファーに近いかもしれません。ワクチンや抗ウイルス剤はさながら『兵器』に当たりますが、新型コロナのワクチンの効果実証や抗ウイルス剤の開発には、まだ時間がかかると思います」

 ――人類はどう対応していけばいいのでしょうか。

 「これほどのスピードを持つ世界規模のパンデミックは、人類初の経験です。忘れるべきでないのは、人間の側がコロナの生息地へ飛び込んでいったという歴史です。森林伐採のために山奥へ入ったり、野生動物を売り買いしたり、感染を引き起こしやすい環境をつくったのは現代社会なのです」

 「私はこれまでに天然痘や牛疫のウイルス根絶に関わりました。コロナウイルスの病原性が強くないことはマウスや家畜の研究で分かっていたので、この弱いウイルスが社会や経済に与えた全世界的な影響には驚きました。新型コロナは、現代社会がいかにもろいかを示したと思います。私たちが戦うべきは、ウイルスではなく我々の社会自体の問題ではないでしょうか。コロナ対策に『戦争』のメタファーを安易に使うことは、この真の課題を見えにくくするように思います」(聞き手・藤田さつき)

     *

 やまのうちかずや 1931年生まれ。ウイルス学の権威。「ウイルスの意味論」など著書多数。昨年は「ウイルスの世紀」「ウイルスと人間」を著した。

2020/12/26 信濃毎日新聞

 

2020/12/10. 文藝春秋2021年1月号

 

2020/12/2 産経新聞「産経抄」

2020/10/26 東洋経済10/31号

 

2020/10/12 東京新聞

 

2020/9/28 赤旗

 

2020/9/28 聖教新聞

 

2020/9/19 北日本新聞

 

2020/9/12 日経新聞

 

2020/8/29 毎日新聞

 

さらに!「現代思想」(11月号)のワクチンについての記事が、文系の自分にも大変わかりやすかったのでこちらも共有させてください。

 

 

あ、そして毎日新聞(2021年1月1日)の記事もどうぞ。

 

毎日新聞(2020年10月28日)のインタビュー記事も。

 

以上です。

 

あ、こちらもセットで↓

ウイルスの意味論――生命の定義を超えた存在

 

【文系的解説】

ACE2・・・アンジオテンシン変換酵素2。コロナウイルスの受容体(細胞に感染するときの鍵穴。ウイルスは鍵に例えられ、鍵穴の合う細胞にしか侵入しない)。

IgM・・・免疫グロブリン。感染したとき、初期で出てくる抗体(細菌ウイルスと戦うためのたんぱく質)。

IgG・・・後で出てくる抗体。

ADE・・・「抗体依存性感染増強」というワクチンの副作用。ウイルスが抗体を利用して体内の別の細胞に侵入してしまう現象。ワクチンした人の方がしてない人より重症化したりするのはこのせい。

 

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