本 |「生命科学クライシス―新薬開発の危ない現場」(リチャード・ハリス)

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生命科学クライシス―新薬開発の危ない現場生命科学クライシス―新薬開発の危ない現場の感想をお届けします。

 

…どんどん、深みにハマってしまっている医学系読み物の読活。

今回読んだのは、新薬開発というか、科学業界全般の闇を描いたこちらの作品です。

 

生命科学クライシス―新薬開発の危ない現場

リチャード・ハリス

 

科学者や研究者と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い描きますか?

ええ、ええ、私的には好きな研究を仕事にしていて、頭脳明晰で理路整然としていて、好奇心旺盛に世の中のためになることを粛々と研究し続けている真面目な人々…

のようなものなのです。そして、本書内に出てくる数々の研究者たちは、おおむねこんな感じのようでした。

皆、本当に真面目に毎日、よりよい社会を目指して一生懸命研究にいそしんでいる。

のですが、ちょっと一部では変なことにもなっているようです。

本書の中から一部ピックアップしますと、

ブラック企業ならぬ、ブラック研究所(安い労働力を提供するポスドク、←将来は確約されてない)化問題。

研究費(助成金)獲得のための熾烈なバトル&書類書く労力どんだけ~問題。

また、理系の研究というのは大抵、誰かの論文(何かを発見したとか研究の結果がまとめてある)に目を付けて、それをもっと深堀りし、さらなる発見をする、、、のように、レンガみたいに研究の上に研究を積み重ねて進められていくのですが、

そもそもの論文、結構な頻度で間違っているのを知らずにピックアップ問題…という深過ぎる闇が…

で、これが本書の最大のテーマでした。

なぜ厳密でなければならない論文に、誤りが多いのかというと、

今ってですね、発表した論文の本数が多いとか、特に有名な学術雑誌(サイエンス、セル、ネイチャー等)に掲載された実績があるとかで、その研究者の価値が測られる風潮があるそうで(インパクトファクターという指数が用いられている、これもよくない風潮)、

結果、論文いっぱい出しやがれのプレッシャーが、ずさんな研究の原因の一つと考えられているようです。

ノルマって嫌ですよね。人を狂わせますよね(自身、ノルマ嫌い)。

最近では、郵政の保険販売の問題もありましたね。

 

あと、人手不足と資金不足でちゃんとした検証ができてない……からのデータ改ざん・いい結果だけピックアップ、微妙な結果もとりあえずなんかそれっぽく見せて発表、

といったようなことも横行していると本書には書かれていました(もちろんそうでない研究もちゃんとありますよ)。

間違っている論文をもとに始めた研究は、そのスタート時点で既に間違っているのに、それの研究ものちに論文化され、さらにその論文を引用した研究が他の研究所で始まり…

と間違い研究が指数関数的に増えていく恐ろしいことが起こっているとのことです。怖い。

しかも、その間違いに対して、世間が相当な大騒ぎにならない限り、後で間違ってました~てへって訂正もほとんどされないそうです。ええ、ええ、経歴に傷がつきますので。怖い。

ちなみに年間、学術雑誌に掲載される論文数はなんと100万本。ヤバい数ですね。

 

というわけで、このご本を読んだところで文系の私にできることは何もないのですが、自身の日常にはない情景に入り込み、ハラハラと楽しむことができました(逆にストレスでは?)。

あなたの知らない世界に触れたい皆さん、ぜひ読んでみてください。

あ、日本人研究者も名誉・不名誉、両方ちゃんと出てきます。

 

商品の説明

内容紹介

効果を再現できない医薬研究、約90%
捏造や改ざんよりも根深い、科学のタブーを暴く

製薬企業が53件の研究を追試したところ、結果を再現できたのはそのうちわずか6件。
再現失敗率、約90%――

命を救うはずの研究が、低すぎる再現性のために、無用な臨床試験、誤った情報、虚しい希望を生みだし続ける。
ずさんな研究はなぜ横行するのか? その影響はどこまで及ぶのか? 改革は可能か?

トップ研究者から、政府組織の要人、業界の権威や慣習に立ちむかう「反逆児」、臨床試験に望みを託す患者まで、
広範な調査・取材を基に、ひそかに生命科学をむしばんできた「再現性問題」の全貌をあぶりだす。

【次々と明らかになる、ずさんな研究の実態】

・乳がん細胞と黒色腫細胞を間違えて、1000件以上の乳がん研究がおこなわれた
・糖尿病や心臓病などの疾患との関連が報告された遺伝子の98.8%が、のちに関連が否定された
・実験の結果が出た後に、それをうまく説明できるように仮説を立てなおす
・わずか数匹のマウスの実験結果をもとに、人での臨床試験がおこなわれた
・マウスで開発された敗血症治療薬150種類すべてが人では効果がなかった
……生命科学では、いったい何が起きているのか?

::::::本書の目次::::::
※弊社HPにて第1章冒頭部分を試し読みいただけます

第1章 製薬業界を揺るがした爆弾発言
再現できない
基礎研究に忍び寄る危機
鈍化する新薬の開発
臨床試験に望みを託す患者
65~80パーセントが失敗するがんの臨床試験
間違った研究に群がる科学者たち
再現性の危機

第2章 無数の落とし穴
生命現象は目に見えない
問いかけ方で変わる答え
間違った手がかりを追いかける
失敗は成功のもと、という思いこみ
研究者を振り回す235種類のバイアス
実験者という不確定要素
研究者の保身

第3章 バケツ一杯の冷や水
ALS研究の高い失敗率
動物実験には基準がない
資金調達の問題
無駄な試験に巻きこまれる
動物実験は信用できるのか

第4章 惑わすマウス
マウスに無害な薬は人間でも安全?
ずさん、見当違い
薬を評価する機械じゃない
モデル動物に取って代わる
理屈どおりにいかない

第5章 疑惑の細胞と抗体
研究室にはびこるがん細胞
乳がんに間違えられた細胞
シャーレで起こる進化
細胞認証に残る課題
抗体が機能しない!
論争を生んだ抗体
抗体試薬の4割に不備

第6章 結論に飛びつく
バッチ効果
ノイズに幻影を見る
生物学を翻弄するビッグデータ
統計学者が否定する統計
ゴールを動かす

第7章 自分の研究をさらせ
探索か、確認か
すべてを共有する
協力をはばむ競争
密室状態のがん研究
教育からテコ入れ

第8章 壊れた文化
ノーベル賞受賞者をも誤らせるプレッシャー
行き場のないポスドク
インパクトファクター至上主義
不正と論文撤回
科学文献に放置される間違い
科学者の3分の1で「疑わしい行為」
行きすぎた競争

第9章 精密医療のハードル
作業の標準化
おなじみの落とし穴
文献の海
柔軟な臨床試験

第10章 規律をつくり出す
研究を研究する研究
基礎研究にも基準を
システムを変える

 

生命科学クライシス―新薬開発の危ない現場